【掲載開始日】2008年4月17日
昨日は、アガサ・クリスティーのデビュー作であると共に、ポワロのデビュー作でもある『スタイルズ荘の怪事件』について書きました。
これは記念碑的作品ですが、ふと「もし、クリスティーの作品を全く読んだことのない人に、一冊紹介してと言われたら」と頭に浮かびました。
クリスティーと言っても、ポワロと、ミス・マープルと、バトル警視と、それからトミーとタペンス(タッペンス)のコンビと、幻想的(?)な探偵役を演じるハーリ・クィンと、パーカー・パインと、あと単発の作品で探偵役をこなす人たちと、といろいろなんですが、まず、ここでは「ポワロ」ものと限定してみると・・・。
やっぱりその場合は、『スタイルズ荘の怪事件』ははずして(ポワロを気に入ったら後で読んで欲しい)、他の作品の方が良いと思いました。
トリックや設定だけに注目すれば、初期の作品でもおもしろいといえるのは結構あるのですが、中期以降の方が、油が乗っていて(?)読みやすいですね。
簡潔な文章が読みやすいだけでなく、心理描写や作者の人生観や価値観がさりげなく投入されていて、「ミステリー=謎解き」だけではない魅力があります。
それで、複数の作品が候補に挙がりますが、ここはまず、『葬儀を終えて』なんかはいかがでしょう?
冒頭にバンと「アバネシー家の系図」なぞが掲載されていて、期待が高まります。(私は、ミステリーに系図や家の見取り図があると、すごく期待が高まって、読むのが楽しみになるタイプです。)
「葬儀」があるので、冒頭に一族の人間が集まりますが、この人物描写を老執事のランズコムにさりげなく語らせて、併せて古き良き時代のイギリスの面影や当家の歴史も浮かびあがります。
ひとくせもふたくせもある・・・とは言わないまでも、さまざまな性格の遺族と、鳩の中に猫を投げ込んだようなある人物の一言から物語が大きく発展してゆきます。このあたりは、何度読んでも「うまいなあ」と思います。
(この『葬儀を終えて』の数年後、クリスティーは、『鳩の中の猫』という作品を書いていて、こっちも私のおすすめです。)
クリスティーの「うまい」ところは、ただ事実の羅列を述べるのではなく、ひとりひとりの人物の気持ちを、その人らしく描写してゆく力量にあります。
もう一方の人からはこう見えるけど、その当人からは相手をこんな風に見ている、ということがリアルに感じ取れるので、読者としては「この人物としてはこう発せざるを得ないし、こっちの性格だったらこう反応するだろうな」と感情移入できておもしろいわけです。
ミステリーでも人間味がなくちゃおもしろくありません。私はそう思います。
で、『葬儀を終えて』は、個性的な人物たちの織り成すドラマをポワロが収束して、大団円を迎えます。その過程をじっくり楽しめますので、初めてのクリスティー作品なら、まずはこの『葬儀を終えて』なんかいかがでしょう?
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