どちらかというと速読です。
先が気になって仕方ない。
どんどん飛ばし読みをしてしまう。
なのに。
1年もかけて、大事に大事に読んだ1冊があります。
それは、J.D.サリンジャー「
九つの物語
」。
週に2~3回。
仕事で書類を受け取りに行く、小さな事務所の椅子で。
大抵10分ほど。先客があれば1時間近く待たされて。
一人、静かに、ゆっくりと、この本を読んでいました。
タイトル通り、9編の短い話。
最初の「バナナフィッシュに最適の日」を途中まで読み、
次に開く時も、また最初から。
読む終わっても、また最初から。
何回も何回も読んでから、ようやく2つめの話へ。
繰り返し飽きることなく読みました。
小さなお菓子を一口ずつ味わうように。
その美味しさを後から思い出すように。
最後の1編は読まないようにしていました。
ずっとずっと大事に大事に残していたくて。
代表作「
ライ麦畑でつかまえて
」はピンとこなかったのに。
この「「
九つの物語
」だって訳分からない話ばかりなのに。
何故か、心にすぅーっと入ってきて、好きでした。
そして、その事務所で流れる、穏やかな時間も好きでした。
仕事で嫌なことがあっても忘れられる場所。
1年経って、他の部署へ異動することになりました。
ようやく、最後の1編「テディー」を読みました。
もう来ることのない、取引先の事務所の椅子で。
予想通りの悲劇的結末に、哀しくなりました。
それでいて、救われた気持ちにもなったのです。
これほど、じっくりと読んだ本はありません。
きっと、仕事で疲れた心が癒されていたのだと思います。
内容は穏やかではないのに、何故か静かな気持ちになる、
不思議な本です。